造船工学科へのお礼

2018年12月05日(水)

生田 幸士 (Koji Ikuta)    S56修士(基礎工学部 生物工学専攻)

 阪大卒で現在東大工学部教授の生田幸士と申します。
 私は昭和52年に本学の金属材料工学科を卒業直後に基礎工学部生物工学科3年に学士入学、修士課程を修了しました。

 当時の生物工学科では修士になると研究テーマを自分で探すことが課題でした。 そこで私は魚の尾びれの形状、剛性の多様性に興味を持ち、形状と推進特性との関係を理論的、実験的に解明するテーマを開始しました。
 石橋商店街の踏切前の肴屋で魚の尾びれだけを大量購入し、形状計測してアルミ板や下敷きで同じ形状の尾びれを作り、水中で上下運動と回転運動を90°位相をずらして運動させる装置を作りました。

 問題は水槽でした。 そこで銀杏祭で見学した造船学科を思い出しました。 しかし先生とは話したこともありません。いくつかの教授室の表札を見て歩き、その中に田中研究室が推進の研究室であると発見しました。
 何度か廊下を往復した末、勇気を出してドアをノックしました。 出てこられたのは、当時助教授の鈴木敏夫先生でした。
 私が汗をかきながら自分の研究を説明し、回流水槽を使わせて欲しいとお願いしました。 尾びれの推進効率が80%以上ある海外の論文の話をしたら、先生は驚かれ「将来タンカーもクジラのような尾びれで推進する時代が来るのかな?面白いね」と興味を持っていただけました。
 その結果、回流水槽だけでなく、データレコーダや流速系など一式を貸していただけることになりました。 M1の私と4年の川村貞夫君と2人で、変位と力を動的に計測できる特殊な尾びれ搖動装置と推進効率を算出すためミニコンプログラムを作り、何度も実験を繰り返しました。

 鈴木先生はいつも親身になって指導下さいました。 計測系のアイデア、流れの可視化、スクリュー理論、無次元解析など大いに勉強になりました。  実験中は、興味津々の教員や技官の皆さんが見に来られ、有益な助言と安全対策について指導いただきました。 おかげで川村君の卒研は完成。機械工学科の修士に進学。私も翌年修士課程を修了し、ロボット工学のメッカの東工大の博士課程に進学できました。

 その後、私は医療ロボットの草分けになった研究で博士を取得し、カリフォルニア大学研究員、九州工大、名古屋大を経て現在東大工学部計数工学科に奉職しております。医用ロボット、医用マイクロマシンを研究しています。  川村君は現在、立命館大のロボティクス学科の教授でロボット学会の会長も務めました。
 いつも2人で鈴木先生、造船工学科皆さんのご厚意の話をしてます。 流れの可視化で翼端に塗ったコンデンスミルクで水槽の水を真っ白にしてしまった時も鈴木先生は怒られませんでした。

 10年ほど前、学会で工学部を訪問する機会がありました。 その帰途、共通実験棟の横を通りました。 懐かしくて中に足を踏み入れると、内部は大幅に変わっていました。 あの回流水槽はもうありません。 水槽のあった場所を歩いていると、私達が作った魚の尾びれ振動装置を発見しました。
 私が修士を出る時に、鈴木先生から「捨てられるなら置いていって良いよ。 造船の学生にも見せて、君らの話もするから。」と言われたことを思い出しました。 周囲にはロープが張られ「松村研究室」の札が下がっていました。
 デジカメで撮影しているうちに涙が出てきました。

 研究者、指導者のお手本として鈴木先生と造船学科のことを忘れておりません。

post by 東京支部HP担当