アイオワ大学水槽の立ち上げについて(眞田有吾)

2012年12月27日(木)
「船型デザイン」研究領域 助教(H13、H15前、H19後)

2011年4月から2012年10月までの一年半、米国アイオワ大学水理科学工学研究所(IIHR-Hydroscience & Engineering, The University of Iowa)のFrederic Stern教授の下で客員研究員として滞在し、アイオワ大学に新しく建設された水槽の立ち上げ作業に従事しておりました。この機会に新水槽の概要と滞在時の研究内容についてご紹介させていただきます。
 
2011年8月に米海軍などの支援の下、アイオワ大学に新しい角水槽(Wave basin)が完成しました。
この建設プロジェクトには当初から戸田研究室がかかわっており、戸田教授の技術指導の下、電車、造波機の施工は三真製作所、森技術研究所が担当しました。
水槽の大きさは、長さ40m × 幅20m × 深さ3mで、阪大水槽と同型のプランジャー式造波機が6台、曳引台車、消波ビーチを備えています(写真1)。一見ごく普通の角水槽ですが、この水槽が非常にユニークなのは、自由航走する模型船まわりの局所流場計測(PIVおよび波面計測)を行うための各種機能を備えていることです。
簡単に新水槽の機能についてご説明します。
写真1 アイオワ大学の水槽施設内部
写真1:新水槽施設内部(アイオワ大学Hawkeyeのマークが水槽底に描かれている)

 1)模型船の自動追尾・航跡の再現機能
新水槽の台車は自由航走する模型船を自動追尾する機能を備え、模型船の位置・方位角(X,Y,θ)のデータを取得することができます。また、取得した航跡を忠実に再現するプログラム運転機能も有しています。台車はX方向に移動する主台車、Y方向に移動する副台車とθ方向に回転するターンテーブルから構成されています。
模型船には船首および船尾部分にそれぞれ赤外線LEDが設置されており、副台車に設置された2台のカメラがこれを捉え画像処理することで、模型船と副台車との位置・方位角偏差を算出し、これらを入力値とするPI制御により台車の自動追尾が行われます。
 2)模型船着脱システム
自由航走試験を行う際には、模型船の初期位置を毎回同一地点に合わせ、模型船の加速を補助する着脱システムを用います。
着脱システムは、ヒーブが自由のパンタグラフと、サージ・ロール・ピッチが自由な3自由度マウントから構成されています。マウント先端部は電磁石となっており、通電すれば模型船上に設置されたマウントと吸着し、模型船を台車に拘束することができます。
拘束状態で模型船を加速させ、設定速度に達した時点で模型船を解放することで、自由航走および自動追尾を開始することができます。
拘束状態で、自動追尾で得られた航跡を用いて1)のプログラム運転機能を行えば、模型船は位置・方位角のみ台車によって決定され、その他の4自由度(ヒーブ・サージ・ロール・ピッチ)は自由となるので、自由航走時とほぼ同じ状態が再現されます。この状態で局所流場計測を行います。
写真2 模型船着脱システム
写真2:模型船着脱システム(左:加速時、右:自由航走時)

 3)非接触6自由度運動計測システム
自由航走試験では、一般的に模型船に搭載したジャイロで運動計測を行っていますが、ドリフトが発生して精度が低下することや、模型船のヒーブを計測する手段がありませんでした。そこで、画像による非接触6自由度運動計測システムを当研究室で独自開発しました。
模型船上部にターゲットボードを取り付け、これをカメラで撮影し、このターゲットボード画像を元に、模型船の6自由度運動を算出するというものです(写真3)。
単一のカメラで6自由度を計測できるため、カメラを複数に増やすことで模型船の大傾斜にも対応できます。
写真3 非接触6自由度運動計測システム
写真3:非接触6自由度運動計測システム

このような新しい機能をもつ水槽で取得された各種データは、Frederic Stern教授の研究室で開発中のCFDコード「CFD-Ship Iowa」の精度向上に反映される予定です。
 
さて、新水槽はアイオワ大学本部のあるアイオワシティから車で約25分程度のアイオワ大学リサーチパーク内にあります。森を切り開いて建設されたため、周囲には自然が多く残り、鹿、七面鳥、狸、ウサギ、リスなどの動物たちが水槽前までやってきます。
 
新水槽完成から昨年4月末までは、私と同じ静岡出身の佐野将昭先生(H18修了、広島大学助教)が滞在されており、お一人で水槽の基本性能の確認などをされていました。私は佐野先生から後を引き継ぎ、水槽の整備と自由航走試験などに取り組みました。当初は一人で寂しく実験を行っていましたが、2011年7月からは当研究室の谷本憲治君(当時修士二年、H24修了、現 日本海事協会)、9月からは高木佳菜子さん(当時学部4年、H24卒、現 三菱重工)が2012年2月中旬までこちらに滞在し、卒論、修論のデータを一緒にとりました。教員と学生が国外の施設に滞在して論文を仕上げるというのは、非常に珍しいケースかと思います。
 
約半年間は私と学生二名しか新水槽にはおらず、さながら「戸田研究室アイオワ分室」といった感じでした。学生の帰国後は、韓国人、中国人、スーダン人、アメリカ人の方々に手伝っていただきながら国際色豊かに実験しておりました。2012年の夏までは波浪中の自由航走試験を中心に行っていましたが、秋からは船体周りのPIV計測の準備が始まりました。新水槽では、自信をもって外部に公表できるデータをようやくとれるようになってきたところです。
これも、厳しいアイオワの冬に耐え一緒に実験していただいた谷本君、高木さん、私のつたない英語を真剣に聞いて日々サポートしてくださる研究所スタッフの方々、アイオワ大学の学生さん達のおかげです。
また、このような貴重な機会を与えてくださった、戸田保幸教授、Frederic Stern教授、阪大教職員の皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。
写真4 アイオワ大学リサーチパーク内の風景
写真4:アイオワ大学リサーチパーク内の風景

眞田有吾 「船型デザイン」研究領域 助教(H13、H15前、H19後)
post by 大阪大学庚子WEB担当